オーストラリアの教育事情と基礎教育機関
この項目ではオーストラリアの教育事情と基礎教育機関についてご説明します。
オーストラリアの各州政府はそれぞれの州で学校教育制度を管理運営しています。つまり、学校への資金拠出や運営規則は州政府が行っているということです。
各州には公立学校と私立学校があります。教育課程(カリキュラム)は州や学校によって異なりますが、学ぶべき分野についてはすべて統一されています。
また、各州には職業教育(Vocational education and Training = VET)またはTAFE(Technical and Further Education)の制度があります。VETは大学の学位を必要としない仕事分野の職業教育です。この職業教育では国内各州で同じような技能レベルを身につけさせるために管理運営されています。そのためVETはすべての州でその資格を相互に移動できるようになっています。ある州の修了証は他の州でも同じ修了証として扱われるわけです。これらVETやTAFEのコースの多くは2年間のコースとなります。 大学教育について、連邦政府はすべての州にある大学に資金を提供しています。そして大学は独立自治を原則としています。大学は自らコースや内容を決めます。そして専門機関がその内容を認定した上でそのコースが運営されます。これら大学のコースは通常3年〜4年間です。
職場では、雇用主は労働者に対し認定されたコースやトレーニングを行います。多くの産業やビジネスでは労働者に対して継続的なトレーニングを行っています。中には資格となるようなものもあります。
また、海外で教育を受けた人々もその内容はオーストラリアにおいて認定されます。
教育参加率と資格制度
オーストラリア統計局によりますと、2011年には15歳〜24歳の約60%が義務教育以上の教育を受けています。オーストラリアの義務教育とは15歳まで学校へ行くか、10年生(10年生とは小学校1年からカウントして10年ですので、日本の高校1年に該当します)を修了することです。
さて、オーストラリア資格制度 (AQF)では3つの教育分野で17資格が制度化されています。 教育分野に分けた教育機関は下記の3つです。
①義務教育および12年生までの教育を行う(学校)基礎教育機関
②実践的専門教育を行う職業教育機関(TAFEや私立専門学校)
③高等教育を行う大学レベルの高度教育機関
教育機関毎に設定されている資格は下記の通りです。
① 基礎教育機関
− シニアセカンダリーサーティフィケート(高校修了資格)
② 職業教育機関
− サーティフィケート1
− サーティフィケート2
− サーティフィケート3
− サーティフィケート4
− ディプロマ
− アドバンス・ディプロマ
− ヴォケーショナル・グラデュエイト・サーティフィケート
− ヴォケーショナル・グラデュエイト・ディプロマ
③ 高度教育機関
− ディプロマ
− アソシエイト・ディグリー、アドバンス・ディプロマ
− バチェラー・ディブリー(日本で言う学士=大学修了資格)
− グラデュエイト・サーティフィケート
− グラデュエイト・ディプロマ
− マスター・ディグリー(日本で言う修士)
− ドクトラル・ディグリー(ドクター=博士)
取得できるそれぞれの資格は、上記それぞれの教育機関が行う場合が一般的ですが、別の分野の教育機関が同じ資格を行う場合もあります。例えば、基礎教育機関である高等学校でサーティフィケート3を提供している場合や大学でディプロマ(準学士)を行う場合、職業教育校で学士コースを行う場合などです。
オーストラリアの教育制度
オーストラリアの学校は公立と私立がありますが、ともに学生の個性を伸ばすことを重視しています。そして、この2つのタイプの学校にはいくつか重要な違いがあります。
● 公立学校は州政府によって運営されていますが、私立学校は州政府は運営に関わっていません。
● 公立学校の学生は基本的に授業料がかかりません。私立は授業料がかかります。また留学生の場合は、公立学校では授業料を払わなければなりませんし、私立学校ではオーストラリア人学生と比較すると留学生のほうが高い授業料になります。
● 公立学校は文化的背景や社会的背景等に関わらず、幅広い人たちを受け入れていますが、私立学校では学校において特定の宗教や文化的な方針があり、それが学生生活に濃く影響する可能性があります。
学習の特徴
オーストラリアの学校ではそれぞれの学生に必要とされる学習を個別に提供できることを目指しています。これはそれぞれの子供の知能や教育の可能性を最大限に引き出す役目を果たします。この学習システムは子供中心に考え、学習方法や学習計画などのテクニックを身につけさせることに重点を置き、学生が長い人生において何事も自分自身で学べるように訓練しているのです。
オーストラリアの学校には次のような特徴があります。
● 教師
教師はそれぞれの学生の学習目標に到達するように導き、手伝っていくことが目的となっています。
● クラス活動
学生はプロジェクトを行ったり、グループ活動を行ったり、自主学習を行います。
● 服装
ほとんどの学校が平等意識と教育に集中するために服装に規定があるか、制服を決めています。
● クラスの人数
できるだけ少人数のクラスが編成されます。これは先生が一人一人のが学生に常時目が届くようにするためです。
● 学校の時間
学校は月曜日から金曜日の朝9時から午後3時までです。そして、各学校では必要に応じて始業前と終業後の学生を預かる制度があります。(これは共働きの多いオーストラリアでは子供の送迎のためや、子供を家で一人にしないためです。)
● 教師養成
ほぼすべてのオーストラリアの教師は大学で訓練され、中等教育の教師はそれぞれの専門分野で専門家資格を持っています。
● 特別プログラム
オーストラリアでは学生の能力を最大限に引き出すために、天才児のための教育や障害者のための教育が行われています。
● 英語サポート
移民の学生や留学生が新しい学校環境に慣れるために英語を学ぶ課外授業等が行われています。
●義務教育の学校
オーストラリアの義務教育は10年生(日本の高校1年)まで、あるいは15歳までとなっています。
Pre-School(幼稚園・保育園)
3歳〜4歳児(小学校入学の2年前)を対象に通常1年間です。
Pre-Schoolは義務教育ではありません。公立・私立の学校があります。留学生が入ることもできます。
Preparatory Year (準備学年)
4歳〜6歳児(小学校入学の1年前)を対象に1年間です。
このPreparatory Yearは州によっては義務教育ではありません。また、この部分は州によって呼び方が違います。例えばKindergarten、Transition、Reception、Primaryなどと呼ばれます。このカリキュラムは小学校のカリキュラムに繋がっています。そして、子供の全般的な発育に焦点をあてています。留学生も受け入れています。
Primary School (小学校)
5歳〜12歳までの6年間または7年間です。
小学校は義務教育です。公立学校では入学試験はありません。また共学校と男子校、女子校が存在します。子供たちは同年齢の子供と、グループ活動や個別学習によって学んでいきます。クラスの担任教師がすべての科目を教えますが、美術などの特殊な科目は専門教師が教えています。小学校修了時に特別統一された試験があるわけではありません。また、小学校修了時点で正式な修了証が発行されるわけではありません。
小学校低学年は非常に重要な成長期ですので生活態度や行動についてしつけられます。また、小学校の学校教育面だけでなく、大人になってから必要となるコミュニケーションや協力する能力を育てることも重視されています。
このレベルの教育機関も留学生を受け入れています。小学生までの子供の留学は基本的に親が同伴した留学が多いのですが、子供のみで留学しているケースもあります。
Secondary School (中学・高校)
12歳から18歳までの5年間または6年間です。
オーストラリアの中等教育は通常、中学と高校が一体となっています。
セカンダリースクールの教育は小学校よりも、より学生個々に即した個別の教育になると言えるでしょう。学生にはそれぞれの興味や目標に合わせた数多くの選択コースが用意されています。
学校によっては特定分野に重点を置いた専門校もあります。選択肢の種類や幅が広がり、それぞれ語学校、音楽校、スポーツ校、IT校、農業校、職業教育校などの専門校が増えています。
中等教育では共学校、男子校、女子校があります。教師は科目毎に専門教師が授業を行います。学生は時間割に従って科目毎に教室を移動します。また、美術、音楽、科学などの授業は専門教室で行われます。
(留学生がこのセカンダリースクールへ入学する場合は過去の学業成績と学校授業についていけるだけの英語力証明が必要になります。) 中等教育は同じ学校内または学校が別々になる場合を含め、2つに分けられます。
Junior High School – 通常7年生〜10年生
Junior High Schoolは日本の中学校(オーストラリアのほうが1年多いですが)に相当します。学生は英語、数学、科学、社会科学などの必須科目を取らなければなりません。このJunior High Schoolを修了する(義務教育修了)と、学生はシニアハイスクールへ進むか、職業教育プログラムを始めるか、または学校を修了して働くか、その選択があります。実際にはほとんどの学生が11年生へと進んでいます。また、いくつかの州ではこの10年生を修了した学生に正式な修了証を発行します。
Senior High School – 通常11年生〜12年生
11年生、12年生になると、学生はさらに幅広く選択できる科目やコースが増えます。例えば、コンピューティング、芸術、ドラマといったように選択肢が分かれます。学生は将来の職業や身に付けたい分野の目標に重点を置いて学んでいくことになります。12年生では大学や職業専門校が入学条件として認定している政府認定資格を取得する科目を選択することができます。
<セカンダリースクール(中学・高校)で取得できる資格>
1. Year10修了証
この修了証は通常正式な修了証というわけではありません。しかし、州によってはこのレベルの修了証で正式なものを発行する場合があります。学生はこの10年生を修了しますと、仕事をすることができたり、職業教育校へ入学することができます。ほとんどの大学はこの修了証での入学は許可していませんが、大人の年齢になれば、大学によっては成人入学枠で入学することが可能です。
このセカンダリースクールの中には職業教育に類する科目を教えて、VET(職業教育校)で取得できるようなサーティフィケート1〜4の単位を取得することができます。
2. Senior Certificate of Secondary Education (シニア中等教育修了証)
この正式な修了証は州によって異なった名前で発行されています。
首都直轄地域 ACT ー Year 12 Certificate
ニューサウスウェールズ州 ー Higher School Certificate (HSC)
ノーザンテリトリー ー Northern Territory Certificate of Education (NTCE)
クイーンズランド州 ー Senior Certificate
南オーストラリア州 ー South Australia Certificate of Education (SACE)
タスマニア州 ー Tasmanian Certificate of Education (TCE)
ビクトリア州 ー Victorian Certificate of Education (VCE)
西オーストラリア州 ー WA Certificate of Education (WACE)
このSenior Certificate of Secondary Education (いわゆる高校卒業資格)取得者は仕事、職業教育、大学進学といった選択肢から選ぶことになります。
学校の中には、留学生のためにこのオーストラリア高校卒業資格の代わりにファンデーション・プログラムを行っている場合があります。その場合は通常特定の大学への進学のファンデーション・プログラムとなっています。
学生ランキング
高校卒業資格取得のための審査結果では、同時に大学への進学を目指す学生のために高等教育入学スコアまたはランクが出されます。これは大学入学合否を決めるスコアで、各大学はそれぞれの専攻コース毎に合格ラインを決めており、学生の志望状況とスコアによって審査されます。
このランキングは次のようなものです。
● 各州が独自のシステムと名前を付けて、計算が行われています。例えば、クイーンズランド州ではOverall Position (OP) Scoreと呼んでいます。
● このスコアは通常、学校内の試験での評価と最終試験の点数によって取得できるレベルが決められます。
● 大学などの高度教育機関は入学希望者の選考にこの指標を使っています。